インバウンド需要で変わる観光地の商店街、和雑貨店の増え方を歩いて確かめた

京都で着付け教室を開いている楢崎小夜子です。
呉服店で12年働いたあと独立し、いまは教室のかたわら、和装や工芸についての文章を書いています。

教室のない日は、着物で街を歩くのが習慣です。
錦市場、新京極、清水の坂道。
同じ道を何年も歩いていると、店の入れ替わりが自然と目に入ってきます。

ここ数年でいちばん変わったと感じるのは、かんざしや和傘、箸といった和雑貨の専門店が増えたことです。
自分の仕事に近い品物なので、うれしい気持ちはあります。
けれど同じ通りから、昔なじみの店が消えていく寂しさもあります。

この記事では、歩いて見た変化を、国や自治体の調査の数字と突き合わせてみました。
観光地の商店街がなぜこう変わったのか。
訪れる側として何ができるのか。
私なりに整理してみます。

京都の商店街を歩いて気づいた変化

錦市場は「買って帰る市場」から「その場で食べる通り」へ

錦市場は、京の台所と呼ばれてきた商店街です。
呉服店に勤めていたころは、仕事帰りにここで干物やお漬物を買うのがささやかな楽しみでした。

いま歩くと、串に刺した練り物や、カップ入りの果物を手にした外国人のお客さまで通りが埋まっています。
店先に並ぶ品も、持ち帰る食材より、その場で口にできるものが目立つようになりました。

2026年1月に関西テレビが、錦市場で80年近く続いた蒲鉾店と、創業160年近い雑穀店が2025年12月末で店を閉めたと報じていました。
雑穀店の方は「食べ歩きにはもう全然(向かない)」と話しています。
同じ報道では、10年ほど前から外国人が増え、日本人のお客さんは2割ほどに減ったという市場の声も紹介されていました。

新京極には和小物の専門店が並ぶようになった

錦市場を東へ抜けると新京極です。
修学旅行生のお土産通りという印象が強かった通りですが、いまはかんざし、和傘、箸、量り売りの着物と、和物の専門店が目につきます。

かんざしだけで壁一面を埋めた店の前では、着付け講師として思わず足が止まりました。
呉服店時代、かんざしはガラスケースの中に十数本並べるのがせいぜいでした。
それが、色違いや柄違いまで含めて、ずらりと手に取れる形で並んでいるのです。

清水の二年坂でも、観光客の通る道ほど和小物の看板が増えていると感じます。
ただ、和雑貨店の数そのものを数えた公的な統計は、探しても見つかりませんでした。
ここから先は、周りの数字から背景を確かめていきます。

数字で見ると、観光地の商店街だけ動きが違う

全国の商店街の様子を知るには、全国商店街振興組合連合会が2025年6月にまとめた令和6年度 商店街実態調査報告書がわかりやすい資料です。
中小企業庁などの協力を得て、全国4,824の商店街から回答を集めています。

この調査では、外国人観光客が1年前より「増えた」と答えた商店街の割合を、立地ごとに出しています。

項目商店街全体観光地の商店街
外国人観光客の数が増えた21.3%64.4%
外国人観光客の消費額が増えた12.8%45.6%

全国で見れば、外国人客が増えたと感じている商店街は5つに1つほどです。
それが観光地に限ると、3つに2つ近くまで跳ね上がります。
全国の空き店舗率も平均11.30%と、前回調査の13.59%から下がりました。

訪日客の数も押さえておきます。
日本政府観光局(JNTO)によると、2025年の訪日外客数は4,268万3,301人で、過去最高でした。

一方、2026年は1月から9月までの累計が前年同期比2.9%減(推計値)と、少し落ち着いています。
中国からのお客さまが55.5%減と大きく減り、韓国は21.6%増、台湾は19.1%増でした。
客数そのものより、どの国の人が来ているかが変わりつつある。
この点は、次の「何を買っているか」に関わってきます。

外国人のお客さまは何を買っているのか

観光庁のインバウンド消費動向調査 2025年年次報告書では、「民芸品・伝統工芸品」を買った人の割合は全体で8.3%でした。
この品目には、扇子や和傘、人形、漆器、和紙などが含まれます。

割合だけ見ると小さく感じます。
ところが国籍別に見ると、米国は19.0%で、中国の6.4%、韓国の3.9%を大きく上回っていました。
和の工芸品に手を伸ばすのは、欧米からのお客さまが中心のようです。

京都に絞ると、数字はもっと大きくなります。
京都市の令和7(2025)年 京都観光総合調査で、外国人観光客が買った土産を地域別に見たのが下の表です。

品目全体北米欧州中国台湾
工芸品(陶器・和風雑貨含む)31.6%36.2%40.2%21.2%12.3%
着物などの伝統的な和装14.5%20.5%19.9%4.5%0.0%

欧州からのお客さまの4割が、工芸品や和風雑貨を買って帰っています。
土産を買った場所としては「土産物店」が57.2%にのぼり、半数を超えていました。

買った地域を見ると、いちばん多いのは京都駅周辺の61.2%。
2番目が錦市場の44.5%で、祇園の42.9%を上回っています。
私が毎週のように歩いている通りが、外国人のお客さまにとっては京都でも指折りの買い物どころになっている。
数字で見せられると、あらためて驚きます。

同じ調査では、2025年に京都市内に泊まった外国人は809万人、京都観光の消費額は2兆474億円と、どちらも前の年を上回っています。
これだけの人が土産物店をのぞいていくのですから、和小物の店が通りに増えるのも無理はありません。

この数字を見て、教室での出来事を思い出しました。
欧米から旅行で来た方の浴衣体験を受けると、帰り際に「この髪飾りはどこで買えるのか」とよく聞かれるのです。
着物は持ち帰っても着る機会が少ない。
でも、かんざしなら自国でもまとめ髪に挿せる。
小さくて軽い和小物が観光地で求められるのは、自然な流れだと感じています。

観光地に和雑貨の専門店が増える理由

新京極で足を止めた、かんざし、和傘、箸、量り売り着物の店。
調べてみると、どれも東京に本社を置く株式会社和心という会社のブランドでした。

代表の森智宏さんは、会社の公式noteで、売上が伸び悩んだ時期から抜け出すために変えたことを2つ挙げています。

  • 出店場所を、ファッションの街からお土産屋の並ぶ観光地に切り替えた
  • 上品に並べるのをやめ、品数で見せる「ボリューム陳列」に変えた

経営者インタビューサイト「社長名鑑」の取材では、現場の販売員から「海外のお客様がみんなお土産として買っていかれる」と報告を受け、アパレルとしてのこだわりを捨てて「お土産の店」に立ち位置を変えた、と話していました。
店舗数はコロナ前の約40%に減った一方で、全店の売上高は当時の220%になったそうです。
かんざしの専門店には1,800種類、合計1万本ものオリジナル商品を並べているとも語っていました。
新京極で見た、あの壁一面のかんざしの理由がようやくわかりました。

会社が2026年8月に出した決算短信では、2026年6月末の店舗数は38店舗。
1月から6月までの来店客数は、前年の同じ時期より28.9%増えています。

2026年に入ってからも、川越、伊勢神宮のおはらい町、谷中銀座、浅草、羽田空港第3ターミナル直結の商業施設と、観光客が集まる場所に次々と店を出しています。
創業からの歩みや、かんざしにかける思いは、和心の代表・森智宏さんの経歴や人物像をまとめた記事で詳しく紹介されています。

着付けを教える身として、ボリューム陳列にははじめ戸惑いもありました。
呉服店では、一点ずつ桐箱から出して見せるのが当たり前だったからです。
けれど初めてかんざしを買う人にとっては、手持ちの着物の色に合わせて何十本も見比べられるほうが、ずっと選びやすいはずです。

同じインタビューで森さんは、社内で「外国人が好むから、この程度でいい」という妥協を禁句にしているとも語っていました。
観光地の和雑貨店には、作りの甘い量産品だけを並べた店もあります。
売る側がこの線を守るかどうかで、街に残る和小物の質は変わってくると思います。

変化を歓迎できない声もある

もちろん、和雑貨店が増えれば、それで良いという話ではありません。

東京の浅草では、地元の町会や商店会などが参加する協議会が2024年に住民と事業者へアンケートを取っています。
台東区の委員会資料によると、住民の77.6%が「観光客向けの店が増え、昔ながらの店が減った」と感じていました。
回答は61名と少ないものの、地元の実感をそのまま映した数字だと受け止めています。

同じアンケートで住民の課題の1位は「ゴミのポイ捨てが増えた」で81.0%。
「気軽に入れる飲食店や憩いの場が減った」も63.8%ありました。
店の顔ぶれが変わることと、暮らしにくさが増すことは、地元の人にとってひと続きの問題なのだと思います。

錦市場の閉店も、外国人のお客さまが悪いわけではありません。
高齢や後継ぎがいないことも、店を閉める理由として挙がっていました。
それでも、地元の人が日々の買い物に来る店が減ると、通りから生活の匂いが消えていきます。

観光客向けの店と、昔からの店が隣り合っている状態。
私がいちばん心地よく歩ける商店街は、そういう通りです。

歩く側として気をつけていること

訪れる側にも、できることはあります。
私が着物で商店街を歩くときに意識しているのは、次のようなことです。

  • 錦市場では、買ったものは店の前か店の中で食べる
  • 和雑貨は手に取って、素材や産地を店員さんに聞いてみる
  • 観光客向けの店だけでなく、昔からの店でも一つは買い物をする
  • 混み合う昼を避けて、朝のうちに歩く

1つめは、京都錦市場商店街振興組合が公式サイトでお願いしていることです。
食べながら歩くのは控え、買ったお店の前や中で食べてほしいと呼びかけています。

2つめは、良い和小物を見分ける近道でもあります。
金属のかんざしなら、足(髪に挿す部分)の太さや先の仕上げを聞いてみてください。
きちんと答えられる店は、商品をよく知って並べている店です。

観光地でかんざしを選ぶときに見ているところ

せっかくなので、着付け講師として私が店頭で確かめていることも書いておきます。
観光地の店は品数が多いぶん、迷いやすいからです。

見るところ確かめ方
足の本数初めてなら二本足のほうが、まとめ髪にしっかり留まります
飾りの重さ手のひらに乗せて、重すぎないものを選びます
足の先指でなぞって、引っかかりがないか確かめます
色手持ちの着物や帯の色を写真に撮っておき、見比べます

飾りが大きく重いものは、写真映えはしますが、歩いているうちに下がってきます。
最初の1本は、小ぶりで軽いものから始めるのがおすすめです。
浴衣にも洋服のまとめ髪にも使えるので、出番も多くなります。

まとめ

歩いて確かめてみると、観光地の商店街で和雑貨の専門店が増えた背景には、はっきりした数字の裏付けがありました。
観光地の商店街の6割以上で外国人客が増え、京都では欧州のお客さまの4割が工芸品や和風雑貨を買って帰っています。

その流れを読んで、観光地にかんざしや和傘の店を出し続けている会社もあります。
一方で、昔からの店が消えていくことに寂しさを感じる地元の声も、数字として残っています。

和小物が好きな一人として、専門店が増えたこと自体はうれしく思っています。
次に観光地の商店街を歩くときは、新しい和雑貨店と古くからの店、両方の暖簾をくぐってみてください。
通りの見え方が、少し変わるはずです。